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テクノロジーでスポーツはどう変わるのか?【前編】——パラリンピックが抱える課題

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AIやVR、ロボット技術の開発・制作、広告コミュニケーションや空間プロデュースなどを手掛けるワントゥーテン。代表の澤邊芳明氏は、2016年から東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アドバイザーとして、スポーツにおける課題を解決するための取り組みを進めている。澤邊氏が同組織のアドバイザーに就任した経緯、そして同氏が考えるオリンピック・パラリンピックの課題について話を聞いた。

アドバイザー就任のきっかけはデザインコンペ

澤邊芳明氏は、2016年に東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アドバイザーに就任した。2016年リオデジャネイロパラリンピックの閉会式で行われたフラッグハンドオーバーセレモニーのコンセプト「POSITIVE SWITCH」を発案したのは同氏だ。それまでテクノロジーを活用したクリエイティブ制作の専門家として知られていた澤邊氏だが、なぜ世界最大のスポーツイベントに関わることになったのだろうか。

「きっかけは、2015年に日本財団パラリンピックサポートセンターが開設された際に行われた、オフィスデザインのコンペに参加したことです。弊社の副社長が日本財団の方と面識があったことから『澤邊さんも応募してみない?』とお声がけいただきました。建築業界からの応募者が大多数というコンペでしたが、最終的には僕の案を選んでいただいたのです。それを契機に、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会から、『アドバイザーをやってくれませんか』と打診をいただきました」

同センターのオフィスは当時、パラリンピックサポートセンターの応援サポーター(現在はスペシャルサポーター)を務めていた香取慎吾氏がエントランスに壁画を描いたことでも話題になったので、記憶している方も多いことだろう。


澤邊氏のデザイン案が採用された、日本財団パラリンピックサポートセンターのオフィス風景

澤邊氏は、建築の専門家とは異なる独自の視点ついて次のように語る。

「オフィスをデザインする際、まず点字ブロックや手すりをどう配置するか、ということに注意がいきがちです。でも、目の不自由な方であっても毎日オフィスに通っていれば、経験的にどこに何があるかを覚えています。ですから、手すりや点字ブロックを必要以上に設置しなくてもよいという考え方もあります。そこで、床材に特徴を持たせて通路の位置を示すという方法をとり、オフィスの内装を損なわずにデザインする工夫を施しました」

加えて自身の案が採用された理由として、『i enjoy!』というコンセプトが評価されたのだろうと澤邊氏は話す。

北島康介氏の『チョー気持ちいい』や高橋尚子氏の『とっても楽しい42.195キロでした!』などの広く知られる名言には、ある特徴がある。それは、「選手自身が楽しんでいること」が表れた言葉という点だ。

「スポーツを頑張っている姿はもちろん、選手自身が楽しんでいる姿を目にすると、応援する側としてもより楽しくなるじゃないですか。だから、『がんばる』ではなく『楽しむ』ことを、選手も観客も共有しようというコンセプトを掲げたんです」

現在澤邊氏は、組織委員会内のいくつかの部門のアドバイザーを担っている。そして東京2020オリンピック・パラリンピックの金銀銅メダルデザインコンペの審査を行うなど、デザインや演出、広報などに関わるさまざまな面で尽力している。


東京オリンピック・パラリンピックの本質的な課題とは

2020年夏に開催される東京オリンピック・パラリンピックまであと1年と数カ月となっているが、その期間で澤邊氏らが解決しなければならない課題がある。

「いまオリンピックを観戦するためのID登録受付が行われていますが、その際にどの競技に興味があるかというアンケートを取っています。そうするとやっぱり人気があるのは、バレーボールやバスケットなどプロリーグのある競技です。オリンピック・パラリンピックの大きな課題として、メジャー競技とマイナー競技の認知や人気の差が大きいことが挙げられます。マイナー競技にいかに興味を持ってもらい集客へとつなげるのか、そこを解決しなければいけません」

特にパラリンピックの競技となると、その傾向は顕著だという。

「どのパラリンピック競技を観戦しても、観客席がガラガラなんです。僕は、東京オリンピック・パラリンピック関連以外で登壇する際に『このパラリンピック競技は知っていますか?』と聴講者に尋ねるんですが、リオデジャネイロ大会で日本チームが銀メダルを獲得したボッチャですら、知っているのは100人中5人程度。その5人も、名前を聞いたことがある程度で、プレイしたことも試合を見たこともないというのが実情です」

まだファンになっていない人が興味を持ち、好きになってもらうためには、何が必要なのだろうか。

「競技団体の関係者の多くは、『試合に勝って、強くなれば観客は見に来てくれるはずだ』と思っているんです。でも、残念ながらそれだけでは観戦する動機にならないんですよ。たとえばテレビでたくさん放送されたり、競技の体験会を開いたりすると認知は上がります。けれど、試合を見に行きたい気持ちになるかというとそうではない。肝心なのは『ファン作り』であって、観客を楽しませなければなりません。たとえばフィギュアスケートだと、エキシビションという採点とは関係ないショーを行うことで、観客を楽しませています。どんな競技であってもファンを増やすためには、観客を楽しませる取り組みが必要です」

澤邊氏は、現代のテクノロジーでスポーツを再発明する「超人スポーツ協会」の理事、パラリンピック競技である「日本ボッチャ協会」の理事も務めている。しかし、特別にスポーツが好きというわけではないと話す。


澤邊氏は、現代のテクノロジーでスポーツを再発明する「一般社団法人 超人スポーツ協会 」(*1)の理事も務めている。現代のテクノロジーでスポーツを再発明する「超人スポーツ」は、「すべての参加者がスポーツを楽しめる」「技術とともに進化し続けるスポーツ」「すべての観戦者がスポーツを楽しめる」を3原則に掲げ、新しいスポーツに取り組んでいる。

「スポーツの大きな大会があれば現地やテレビで楽しむという、ごく一般的な観客であり、視聴者の一人です」

東京オリンピック・パラリンピックのような大きな大会は、一般の人たちにまでスポーツの楽しさを伝える必要がある。業界関係者だからこそ誤解してしまう「強ければ人気が出る」という感覚ではダメだという気づきがあるのも、澤邊氏が視聴者としての視点に立っているからだろう。

テクノロジー自体にこだわりはない

ここで、澤邊氏が代表を務めるワントゥーテンについて紹介しておこう。大学在籍中の1997年に一人でウェブ制作会社ワントゥーテンデザインを設立。そこから同社は、AIやVR、ロボットと幅広いテクノロジーを活用したクリエイティブ制作を手がけるようになり、現在はプロジェクションマッピングやXRなどを活用した商業施設やイベントのデジタル演出なども広く手がけるクリエイティブコンサルティングカンパニーへと成長した。

「当社は、VR映像コンテンツの開発からソフトバンク社のロボット『Pepper』のAI開発にいたるまでさまざまな仕事を手がけていますが、根本には『テクノロジーは課題解決の手段に過ぎない』という考えがあります。弊社が得意としているのはAIとVRの活用ですが、そこに固執しているわけではありません。その時々の課題を解決するために、AIやVRよりも適したテクノロジーがあれば、それを選択していきます」

2017年に澤邊氏は、「CYBER SPORTS 」(*2)というパラリンピック競技を体験できるプロジェクトを立ち上げた。まさにこのプロジェクトでは、パラリンピックにおける「ファンを生み出す」「観客動員を増やす」という課題を解決するためにテクノロジーが活用されている。その詳細については引き続き後編でご紹介しよう。

前編を読む | 後編を読む

注釈:
(*1)一般社団法人 超人スポーツ協会(外部サイト)
(*2)CYBER SPORTS(外部サイト)

プロフィール

澤邊芳明

1973年東京生まれ。京都工芸繊維大学卒業。1997年にワントゥーテンを創業。ロボットの言語エンジン開発、日本の伝統文化と先端テクノロジーの融合によるMixedArts(複合芸術)、パラスポーツとテクノロジーを組み合わせたCYBER SPORTS など、多くの大型プロジェクトを手がける。公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 アドバイザー日本財団パラリンピックサポートセンター 顧問、など

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