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テクノロジーでスポーツはどう変わるのか?【後編】——バーチャル体験で課題解決を

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VRやAIなどのテクノロジーを活用したクリエイティブ制作を得意とするワントゥーテン。代表を務める澤邊芳明氏は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックへ向けて、パラリンピック競技の「ファン獲得」と「観客動員増」という課題解決のために「CYBER WHEEL(サイバーウィル)」と「CYBER BOCCIA(サイバーボッチャ)」を制作した。
どちらもパラリンピック競技を疑似体験できるものだが、どのような機能、特徴を持つのだろうか。また、それらのテクノロジーは、今後のスポーツにどのように貢献していくのだろうか。澤邊氏に話を聞いた。

競技の魅力を実感するためのバーチャル体験

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アドバイザーを務める澤邊芳明氏は、パラリンピックの「ファン獲得」と「観客動員増」という課題を解決すべく、競技を疑似体験できるプロジェクト「CYBER SPORTS 」(*1)を手掛けている。その第一弾として、2017年1月には車イスのロードレースを疑似体験できるVRレーサー「CYBER WHEEL(サイバーウィル)」をリリースした。


VRレーサー「CYBER WHEEL(サイバーウィル)」

「CYBER WHEEL は、車いすロードレースを疑似体験できるアトラクションで、VRデバイスを装着して、近未来の東京を舞台に400メートルを走ってもらいます。実際の競技と同じようなスピード感を味わえるように、体感速度の再現などにはこだわりました」

CYBER WHEELを開発した背景には、パラリンピック競技の面白さが世間になかなか伝わらないという課題があった。

「ウサイン・ボルト選手のすごさって、誰もが理解できますよね。それは、みんな走ったことがあるからなんです。パラリンピックの競技って、ほとんどの方はやったことがありません。だから、面白さやすごさが伝わりづらいんです。課題を解決するためには、実際に体験してもらう機会が必要だと考えました」

これまでにも、ロードレース用車イスの体験会などは各関連競技団体などによって行われてきた。しかし、それだけでは「面白い」と感じてもらうことはなかなか難しいのだという。

「競技用の車いすって、個々の選手にフィットするように作られているし、普通の車イスとも違うので、初心者は上手に漕げません。すると『こんなに大変なことをしているんだ』という感想が先行してしまうんです。でも、スポーツって、『大変なことを頑張っている』というのが応援するモチベーションではないですよね。『ボルトは練習を頑張っているから応援しよう』と思うわけじゃないですし。やっぱり、『面白い』とか『カッコイイ!』、『すごい!』って思うからファンになって応援するんですよ。そのための僕の役割は、テクノロジーを活用して競技の面白さと選手のすごさを伝えていくことだと思って、CYBER WHEELを作りました」

CYBER WHEELは、初心者でもロードレースができるように作られているが、体感速度とそれにともなう操作性は忠実に再現されている。つまり、走行タイムには、如実に運転技術の差が表れる。実際に、車いすレースの選手ほど好タイムを叩きだしており、すでに1万人以上が体験しているが、上位トップ10はほとんどが現役の選手たちだという。東京・お台場にあるトヨタ自動車の施設「MEGA WEB」では、現役選手の走行データと仮想対戦できるが、体力自慢の者であっても歯が立たないそうだ。こういった体験が、「プロの選手ってすごい」という尊敬や、競技への関心につながるというわけだ。

2017年8月には、パラリンピック競技の「ボッチャ」 (*2)を、サウンドやLEDで彩られたサイバー空間で、競技を追体験できる「CYBER BOCCIA(サイバーボッチャ)」をリリースした。澤邊氏自身も大学時代のバイク事故で車いす生活をしており、25年ほど前にボッチャをプレイした経験があるという。

「ボッチャとは、白いジャックボールに自分の投げたボールをどれだけ近づけられるかを競うスポーツです。大学時に体育の単位を取るためにパラスポーツをやる必要があり、1年ほどプレイして、面白いなと思って。ただ、審判が定規で距離を計測するので、ゲームのテンポが悪くて見栄えもどこかやぼったい。センシングで距離を計測できれば、もっとスタイリッシュに楽しめるかもしれないと感じて、CYBER BOCCIAを開発しました」


CYBER BOCCIA (*3)

実際にCYBER BOCCIAの制作に取り掛かってみると、公式ボールを加工しない状態でセンシングすることには相当苦労したという。また、複数ボールがフィールドにある状態でボール同士が当たったり、一投するたびに相対的な位置が変わったりすることで、センシングに必要な基準点の計算難度は高く、簡単に完成させられたわけではなかったそうだ。現在、こちらは大阪の「VS PARK」で体験できる。また、CYBER WHEEL、CYBER BOCCIAともに、体験イベントも頻繁に行われている。


「CYBER WHEEL(サイバーウィル)」体験イベントの様子

テクノロジーはどのようにスポーツに貢献するのか?

澤邊氏はテクノロジーを「課題解決のための手段」と位置付けるが、テクノロジーを活用することへの面白みはどこに感じているのか。

「社会実装という側面から考えると、テクノロジーには“妄想的未来”と“現実的未来”の2種類があると思うんです。たとえば、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てくる空飛ぶ車やスケートボードなどは、いまだに実現されていません。これは妄想的未来です。一方で、すでに生活の必需品となっているスマートフォンは現実的未来といえます。これらをつなぐのがクリエイティブの力なんです。クリエイティブは、いわば現実と妄想をつなぐハブ。そして、ハブそのものも、また新たなテクノロジーによって進化していきます。そういったダイナミズムに魅力を感じますね」

澤邊氏は、スポーツにおけるテクノロジー活用の可能性について次のように話す。

「観戦面でいえば、競技の演出に生きてきますよね。たとえば、プロジェクションマッピングで派手にショーアップしたり。テクノロジーはそういったエンターテインメント性を得意としていますし、会場に足を運んでもらうには面白いと思ってもらう必要があります」

さらに、車いすや義手などの製作技術の進化に伴って、こんな未来も考えられると話す。

「『サイボーグ』って現実的未来だと思うんです。近年、急速な技術進化によって、脳波の信号をもとに動く義手や、AIが適切な歩幅を導き出して次の一歩を踏み出してくれるなんて義足も出てきました。これは、もはやサイボーグの世界ですよね。だんだんと義手や義足の役割は、身体機能の『補完』から『拡張』へと変わってきていると感じます。パラリンピックでも、ボルトの記録を抜く義足ランナーが出てくるかもしれない。すでに幅跳びなどいくつかの競技では、オリンピックの記録をパラリンピックが抜いています。そうなると、たとえばパワードスーツを使った競技が出てくるかもしれません。これは妄想的未来ではなくて、かなり現実的未来として進んでいくと思っています」

東京オリンピック・パラリンピックへ向けて

最後に、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会としての意気込みを伺った。

「開催まであと1年ちょっとなので、競技に興味を持ってもらうための活動を継続していきます。より深い興味をもってもらうためにも、見てもらうだけでなく“実際にやってみてもらう”機会づくりを考えています。ボッチャでいえば、競技に興味を持ってもらうためにCYBER BOCCIAを制作したわけですが、現在は、短期間のイベントで設置させてもらうことが多く、あまり体験できる機会がありません。なので、もっと常設させてもらえる場所を増やしたいですね。パラリンピックは身体に制限のある人のための競技なので、年配の方でも楽しめるものが多いんです。特にボッチャは重度障がい者用の競技なので、もともと腕の力がない人でも投げられるボールになっているんです。おじいちゃんおばあちゃん世代と孫世代による対戦なんかも、よくあるシーンです。こんな風に全世代が共通で楽しめるスポーツってなかなかないですよね」


実はパラリンピック競技は、スポンサーが集まりづらいという課題も抱えている。そのサポートのため、CYBER BOCCIAの利用料から生まれる収益の一部を日本ボッチャ協会に寄付する仕組みになっている。

「東京オリンピック・パラリンピックが終わったら、波が引くようにスポンサー離れが起きる可能性があります。そのことを各競技団体もかなり心配していて。選手が自腹で海外遠征に行くことも多いんです。東京オリンピック・パラリンピックという打ち上げ花火だけで終わらないようにするために、2020年以降もいろいろな競技の試合に足を運んでもらえるように、今後も取り組みを続けていきます」

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注釈:
(*1)CYBER SPORTS(外部サイト)
(*2)ヨーロッパ発の、重度脳性麻痺者もしくは同程度の四肢重度機能障がい者のために考案されたスポーツ。ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに、赤・青のそれぞれ6球ずつのボールを投げたり、転がしたり、他のボールに当てたりして、いかに多くジャックボールに近づけるかを競う。
(*3)CYBER BOCCIA(外部サイト)

プロフィール

澤邊芳明

1973年東京生まれ。京都工芸繊維大学卒業。1997年にワントゥーテンを創業。ロボットの言語エンジン開発、日本の伝統文化と先端テクノロジーの融合によるMixedArts(複合芸術)、パラスポーツとテクノロジーを組み合わせたCYBER SPORTS など、多くの大型プロジェクトを手がける。公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 アドバイザー日本財団パラリンピックサポートセンター 顧問、など

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