ビジネス創出

スノーボーダー向けサービス「BONX」が、B to B市場に投下された理由

記事内容の要約

  • コミュニケーションサービスである「BONX」は、創業者の“スノーボードにおける完成された体験”をユーザーに提案したいという発想から生まれた
  • BONXは、スノーボードと親和性の高いアウトドアスポーツへと市場を拡げたのち、同様のデバイスに付加価値をつけたコミュニケーションサービスとして法人向けに開始された
  • 「煩わしさのないコミュニケーションを提供する」という一貫したポリシーによって、コンシューマー向け・法人向けを問わず同じ価値を提供できることが、事業の拡大につながっている
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「BONX(ボンクス)」は、スノーボーダーである創業者が、自身の体験から感じた課題を解決するためのソリューションとして手がけた、音声コミュニケーションサービスだ。2016年1月のベータ版を経て、2016年12月に正式リリースされて間もなく、スノーボードからアウトドアスポーツ全般へ拡大した。そして、次なる施策として法人向け市場を狙ったサービス「BONX for BUSINESS」を立ち上げる。創業者であり、株式会社BONX代表取締役の宮坂貴大氏に、コンシューマー向けから法人向けへと裾野を拡大できた秘訣を聞いた。

コミュニケーションサービス「BONX」

「BONX(ボンクス)」はイヤホン型ウェアラブルデバイスとスマホアプリを組み合わせ、利用者同士でグループ通話ができるコミュニケーションサービスだ。装着型デバイスである純正ヘッドセット「BONXS Grip」はハンズフリーでもプッシュトークでも使えるマイク付イヤホンになっている。アプリには「発話検知」機能が搭載されているので、ユーザーが話し始めれば自動的に相手との通話が開始される。発話をしていない間は通話がオフになるため、スマホのバッテリーや通信料を気にする必要はない。

また人の声を高精度で検知、AIによる機械学習でその場の音声環境に合わせて最適化し、利用者の息づかいや騒音、風切り音による誤作動を防ぐ。デバイスはBluetoothでスマホと接続するのでわずらわしいコードがなく、両手がふさがることもなく滑りを邪魔しない。ユーザーのスマホ同士の会話はインターネット通信で行われるので、携帯の電波さえあればいくら距離が離れていても通話可能だ。


スノーボードを原体験とした創業

スノーボードをはじめ、サイクリングやフィッシングなどアクティブなアウトドアスポーツ全般へ波及し、多くのファンを獲得しているBONXだが、開発のきっかけは創業者である宮坂貴大氏自身がスノーボーダーだったことにある。

「スノーボードを始めたのは高校の卒業旅行からです。大学入学後も、夏休みを利用して、一人で冬季のニュージーランドへ行きました。現地では、スノーボードを通じて人と知り合い、多くの国の“濃い仲間”にも恵まれました。ボード仲間たちはみんな、ライフスタイルがイケててかっこよかったし、滑るという行為自体も実に自由で、あのときは本当に楽しかったですね」と宮坂氏は振り返る。『THE・進学校』というカルチャーだった高校時代の反動もあったと宮坂氏は笑うが、その後“どハマり”するのに十分な魅力がそこにはあった。


株式会社BONX 代表取締役 宮坂貴大氏

それからしばらくして大学院を出た宮坂氏は2011年、コンサルティング会社に就職するが3年ほどで退職。もともと起業意欲はあり、いつも事業のアイデアは考えていたという。BONXのアイデアは、その頃ウェアラブルカメラ市場を席巻していた米GoPro社の起業エピソードからだった。

GoPro社は、2002年に、サーファーでもあるニック・ウッドマンによってアメリカで設立された。「プロのカメラマンに頼むことなく、自分の波乗り姿やボードから見える風景を撮影したい」というサーファー視点の課題から事業のアイデアを得て、手首に装着する小型フィルムカメラ「GoPro」が開発された。その後カメラの改良が重ねられ、映像撮影も可能になり、いまもなおGoProは多くのユーザーに愛されている。


サーフィンという一つのカルチャー、そして一人のサーファーの情熱から、グローバル企業が誕生——。宮坂氏はそこに刺激を受けた。同時に、スノーボーダーとしての体験から、ある課題に気付いていた。それは、「携帯電話は滑りながらの通話には向いていない」「仲間とはぐれたときに電話をしても気付きにくいし、音が途切れがち」「市販のレシーバーはごつく、スノーボードの邪魔になる」といった、ボード仲間とのコミュニケーションが雪山では円滑にとれないということだ。

「スノーボードにおいて、携帯電話やトランシーバーが使えないわけではありません。しかしそれは、滑りを邪魔することなく仲間とコミュニケーションをとりたいという私の理想とするスノーボード体験とは言えない。GoProのように完成された体験を提案したかったんです」(宮坂氏)

宮坂氏は2014年11月、前身となるチケイ社(2016年6月、株式会社BONXに改称)を立ち上げ、コミュニケーションサービスであるBONXの開発に着手。クラウドファンディングに出品すると反応は上々で、「100万円で目標達成のところ、結果的に2,500万円もの資金を調達できた」という。こうしてBONXは、2016年1月にベータ版がリリースされた。

「BONX」を活用した法人向けサービスの構築

「そもそも、スノーボードの世界だけに閉じこもるつもりはありませんでした。BONXにより享受できる体験をもっと進化させ、さまざまなシーンに提案していきたいと、創業時から考えていました」(宮坂氏)

正式リリースから1年後の2017年12月、同社はB to Bの市場を見据えた事業として「BONX for BUSINESS」をスタートさせた。コンシューマー向けには「デバイスを購入すればアプリを無料で使える」となっているが、BONXの法人向けサービスは「初期コスト不要の月額課金」だ。法人ごとのアカウントで運用され、アカウント内でIDを割り振り、最大30名までのグループコミュニケーションが可能となる。なおサービスはBONX Gripのほか、同社で展開する他のイヤホン、あるいは市販のイヤホンでも利用は可能だ。


「コンシューマー向けに初めてBONXを発表して以来、ビジネスで使いたいというお問い合わせもたびたびいただいていました。例えばある海外ファッションブランドでは、店舗スタッフのコミュニケーションツールとして、とても“イケてる”とは言い難い市販のインカムが長らく使われていたようなのですが、本社からも『ブランドイメージを損なうのでは?』とたびたび指摘されて、代替品を探すなかでBONXに辿り着いていただきました」(宮坂氏)

こうした需要のほか、医療機関や消防機関などもBONXの利用シーンとして適合し、問い合せや利用があるという。

「弊社が提案する体験は、これまで展開してきたBONXとfor BUSINESSで大きな違いはないと考えています。ただfor BUSINESSには、セキュリティやオーソリゼーションなどビジネスシーンならではのニーズがいくつかあります。だからといって法人向けにまったく新しいサービスを構築したのではなく、発展性のある音声コミュニケーションサービスの上に、ニーズに応えるだけの付帯サービスを加えていった、という形です」(宮坂氏)

業務提携で法人向けサービスを加速

2018年7月には株式会社リコーとの資本業務提携締結も発表された。リコーは新たな事業として「経営戦略・働き方改革をカタチにするワークプレイスデザイン」に注力しており、業務提携によって「インタラクティブ ホワイトボード(電子黒板)」などに音声コミュニケーション機能を組み込み、エッジデバイス(*1) の提供価値を高めていく狙いがある。

「BONXの最大の特徴である常時接続性は、一般的なオフィスにも展開できます。誰かに用件があるたびに内線をかける、という煩わしさはこれからのオフィス環境において改善していきたい部分じゃないですか。BONXでチームが常につながっている状態になれば、ちょっとした雑談なんかもしやすくなるし、物理的な距離が離れていても気にならなくなる。ホワイトカラーのオフィス改革にも十分寄与できるものだと考えています」(宮坂氏)

リコーとの業務提携では、「BONX for BUSINESS」で収集される会話ビッグデータの活用にも取り組んでいる。例えば「蓄積されたデータを活用し、職場環境改善のためのモニタリングに活かす」など、新たな価値を創出できると宮坂氏は言う。

さらに、「音声データから社員のメンタル情報を可視化することで、企業のマネジメントに役立たせることが可能になる」として、2019年1月には音声解析のスタートアップ企業・Empath(エンパス)との業務提携も発表したばかりだ。


煩わしさのないコミュニケーションを実現するために

スノーボーダーとしてのプライベートな体験がきっかけで開発されたBONXは、いまや法人向けサービスである「BONX for Business」で活用されている。そしてそれは、ホワイトカラーのコミュニケーションにまつわる課題解決にまでアプローチしつつある。

「主にスノーボーダーを対象としたB to C市場と、法人を相手にするB to B市場で大きな違いがあるとすれば、セールスの仕組みでしょうか。コンシューマー向けではコンセプト動画やデジタルマーケティングといったセールスプロモーションが消費者の心に刺さりやすいのに対し、法人向けでは営業組織が必要になります。なので、弊社も組織編成などを考えなければならない。でも、コンシューマー向けビジネスを止めるわけではありません。会社として一貫したストーリーを持ち、徐々に事業を拡げていくことが必要だと思います」(宮坂氏)

コンシューマー向け市場から始まった同社が、創業から5年足らずで法人向け市場へとビジネス機会を拡大できたことは、特に、新たな事業を展開する企業にも大きなヒントを与えることだろう。

「BtoCの市場で、“完成された体験”を提案すべく多彩なストーリーを描いてきたからこそ、BtoBの市場でも、現場で使用される方々に寄り沿った提案ができました。私は両領域を分けて考えるのではなく、共通化できる部分を見極めるのが肝要だと考えています。その一つが、煩わしさのない円滑なコミュニケーション体験を提供する、という軸です。まだまだ弊社も成長途中ですが、世界的にもユニークで認められる、オンリーワンの体験を提案できるようになれると思っています」(宮坂氏)

注釈:
(*1)通信ネットワークを他の通信ネットワークと接続し、データの統合や同期などを行う機器の総称

プロフィール

株式会社BONX 代表取締役 宮坂貴大氏

新卒で入社したボストンコンサルティンググループにてハイテク領域・消費材領域のプロジェクトに3年半従事。その後BONXのアイデアを思いついて起業し、CEOに就任。東京大学には8年間通ったが、そのうち4年間はスノーボード中心の生活で、北半球・南半球を往復する。三児の父。

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